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朱日記と泉鏡花記念館


現在、金沢泉鏡花記念館にて、朱日記 原画展をしていただいております。
国書刊行会より出版されました「朱日記」の原画47枚を毎週週替わりで5週間展示予定。

さて、この「朱日記」、泉鏡花記念館があってはじめて生まれた作品だと言えます。
僕が最初に「朱日記」を絵本化の俎板の上に乗せたのは、
実は「龍潭譚」を最初に絵本にしようと考えた2008年のことでした。
東京初個展を前に鏡花モノを絵にしたいなと思って、龍潭譚を思い出したのですが、
その際、「化鳥」と「朱日記」も候補にあげておりました。
絵本(というより繪草子)にするのにほどよい長さで、
かつ描きたいシーンがあるかどうかで選んだ三作でしたが、
「化鳥」は絵に落とし込むと台無しな話だと思ったし、
「龍潭譚」の「高野聖」的な色気と妖しのシーンの前に、
「朱日記」はあっけなく脱落してしまったのでした。
でも、なぜか魅かれる作品で、赤い猿を操り城下町を焼き尽くす魔人や
意味不明だが気風のいい台詞を言う赤いグミのお姐さん、
いっちゃってる美少年に、生真面目なのに怪異を目の当たりにしてしまう教頭先生など、
頭の隅にずっと残っていたようなのです。
「龍潭譚」を描きあげた時点ですっぱり忘れて、実際タイトルも憶えてなかった程なんですが、
それを思い出させてくれたのが、泉鏡花記念館だったのです(またもや!)。

2013年の金沢市の泉鏡花フェスティバルを見に行ったときのこと。
僕は「絵本化鳥」を完成させた直後で、
「繪草子龍潭譚」の原画展もしていただけるということもあり、
燃え尽きてからっぽな気持ちで会場をぶらぶら見ておりました。
すると一角にパネルのコーナーが設けてありました。
泉鏡花記念館の学芸員穴倉女史による
金沢と泉鏡花の歴史の紹介のコーナーだったと思います。
なんの気はなしに読みすすんでいくと、
「鏡花の母と一本松の焼失について」の記事が目にとまりました。
そこで、はっと「朱日記」のことを思い出しました。
そうか、「あの話」の中の魔人によって一瞬燃え上がる松の木は、この「一本松」なのか!
なぜか急に「あの話」がリアリティを持って立ち上がり始めました。
鏡花ー母ー美しい姐さんー松ー魔人などが何かの意味があるように思えて来て、
「あの話」描きたい!という気持ちがわき上がってきたのです。
「あの話」とは「朱日記」なのですが、
そのときはそのタイトルを思いだせず、パネルを見てすぐ、穴倉女史に
「次に絵本化するなら、あの魔人が金沢の街を燃やす話が描きたい」と言うと、
怪訝な顔で「??朱日記ですか?」と答えてくれたものです。
怪訝な顔もそのはず、「朱日記」は
研究者の方からはそんなに重要視されていない作品だったわけです。
なのですが、この穴倉女史のパネルを読まなければ、
「朱日記」はそのタイトルすら忘れていたままに違いありません。

その後「絵本化鳥」が意外に好評だったので、
国書刊行会さんから、もう一冊鏡花本を描いてもいいよ。と言ってもらえて、
紆余曲折の末、「朱日記」でいこう、ということになりました。
が、実際描こうとしてもなかなか進まず、
ぐずぐずしている僕にまたもや手を差し伸べてくれたのは穴倉女史でした。
「全国文学館協議会共同企画『天災地変と文学』というテーマで
一枚絵を描いてみませんか?(朱日記で)」
穴倉女史はさっそく明治時代の学校や生徒の写真など資料を送ってくれました。
ここではじめて僕は「朱日記」を具体的に描く最初の試みをはじめることができたのです。

「朱日記」―災厄のきざし 2014.3

このときにいただいた資料が後に絵本「朱日記」を制作する上でとても
役に立った事は言うまでもありません。
その後も穴倉女子には様々な助言や励ましをいただき、
完成へと漕ぎ着けることができたのです。
ことほどさように、泉鏡花記念館と学芸員氏がいなければ、
「朱日記」は完成しなかった作品です。
「朱日記」は泉鏡花記念館から産まれました。
「朱日記」を母の体内で味わう展覧会、開催中です。

「中川学画 朱日記」展 2015.8.10から約5週間開催予定。
※全原画を週替わりで展示いたします。
金沢泉鏡花記念館

※ちなみに、「原画」と言っておりますが僕の場合illustratorのデータで作成しておりますので
本来「原画」というものが存在しません。
が、僕はこれは大事と思われる絵に関してはプリントして残すことにしておりまして
信頼できる刷師さんの元でプリントしてもらったものを「原画」として保存しています。
データなんて、いつなんどき、一瞬にして消え去るかわからない儚いものですから。
刷師さんはおなじみ、関西の伝説のプリンター今泉浄治氏。
なので今回の展示もピグメントプリント(版画)の展示となりますので、あしからず。
でも、その美しさは手描きにも負けておりませんので、一見も二見も、五見の価値もアリです。
今回出版された「本」も、装幀家の山田英春氏によるアートディレクションで
とても美しい刷り上がりとなっておりますが、
「原画」は「本」とは違った浮世絵のような美しさを味わっていただけると思います。













 
  • 2015.08.11 Tuesday
  • -
  • 20:13

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